この記事では、投票の意味を考えるための準備として、極々単純化したモデルを設定したいと思います。
その名も『日本国政府株式会社』です
プロローグ・カレー味のジレンマ
それは、ある秋の晴れた日の代表者会議での出来事でした。
我が社の現場リーダーが宣言しました。
「『カレー味のう○こ』か『う○こ味のカレー』か、今こそ取締役の皆様の信を問いたい!」
現場リーダーの号令に、なぜか取締役の代表者たちは万歳三唱し、代表者会議が解散しました。
現場リーダーは「これは『カレー味選挙』である!」とケレン味たっぷりな声色で命名しましたが、当日の内にWikipediaにはしっかりと『う○こ解散』と掲載されました。
任を解かれた代表者たちと現場リーダーは、一旦取締役に戻りましたが、既に解任前から再任を目論んでいたらしく、元代表者たちや近しい取締役たちとなんかやってます。
毎度毎度、似たようなメンツが手を挙げるみたいな茶番がデフォルトになったのはいつからでしょう。
少なくとも、私が取締役になった時には既にそうなって久しい感じでした。
日本国政府株式会社
会社紹介
使命と社則
さて、我が日本国政府株式会社をざっくり見てみましょう。
使命
使命は秩序の維持です。
胡散臭いですね、秩序とか。
それ以前に『使命』とかがすでにもう胡散臭いです。
その通りです。
胡散臭いんです。
「使命が」「目標が」とか「秩序が」「利益が」とか言うやつは大概ムチャクチャやりやがります。
『使命』なんてものを与えてしまうと、「どんな犠牲を払ってでも」みたいな現場の暴走が必ず発生します。
なので、日本国政府株式会社に使命はありません。
使命が無いことは、無いだけにどこにも示されていませんが、超重要なことです。
ただし、使命がないとはいえ、存在意義はあります。
株式会社ですから、株主全体の利益を最大化することです。
また、最低限、全株主に対して健康で文化的な最低限度の生活を保障するだけの利益を提供することは、ある意味で『使命』に最も近い、会社に課せられた最も重要な役割です。
これすら果たせないようでは、多くの株主にとって日本国政府株式会社は存在価値を失います。
社則
社則の柱は三つです。
- 会社は株主の物である
- 株主の基本的人権を保障すること
- よその政府株式会社と揉めるとき暴力使うな
です。
他にも、あるんですが、結構大雑把な最低限の規則です。
ご興味のある方はご覧ください。
量的には大したことないのですが、いかんせん古いものなので若干読みづらいです。
社則以外の細かいルールは、必要に応じてその都度代表者会議で決めたり、修正したりしてます。
会社組織図
取締役会→代表者会議→現場リーダー→現場
シンプルですね。
シンプルなのはいいことです。
この組織図でわかる通り、取締役会は会社の最上位の組織です。
そして、さっきの社則は取締役会が代表者会議以下の従業員に課した規則です。
決して、取締役会を縛る規則ではないことに注意してください。
社則は取締役会だけが変えられるので、その取締役会が社則に縛られていたらバグってしまいます。
お仕事紹介
現場
具体的にどんなサービスを提供している会社なのかはよく分かりません。
インフラとか教育とか医療とか、なんか生活に大事なものは結構色々やってるらしいです。
現場で働いている人たちは、超絶難しい試験をパスした人たちなんで、超絶優秀です。
何の会社かはよく分からないけれど、超期待できますし、超期待すべきです。
現場リーダー
会社が具体的に何をやるかは現場リーダーに任せてるんで、まあなんか一生懸命やってくれているんだと思います。
現場リーダーは代表者会議の管理の下、株主の利益向上のために様々なサービスを実施します。
代表者たちの中から互選で決まります。
現場のリーダーであって、代表者たちのリーダーってわけではありません。
むしろ、部下に近いはずですが、なぜか代表者会議では混乱があるように見受けられます。
現場リーダーは就任するとき、代表者の中から部下を選べるんで、これが混乱の原因かもしれません。
代表者によって、管理される立場である現場リーダーですが、株主の利益になると信じているサービスを断行したい時、代表者会議で反対されても代表者達をクビにし、直接取締役会の判断を仰ぐ権利があります。
その時は、自らを含む代表者会議を解散して取締役会による代表者の入れ替えを図ります。
代表者
代表者たちは現場がちゃんと仕事してるか見張るのが仕事です。
最も大きな仕事が、必要に応じて現場リーダーをクビにすることです。
もし、会社が株主全体の利益に反するようなサービスを断行しようとした時に、現場リーダーを解雇し、株主の利益を保全します。
日常的な業務としては、現場リーダーがやりたいと思ったサービスを実際に行う際に、現場にどんなルールが必要なのかを考えルールを設定します。
現場だけでなく、株主同士のトラブルを公平に解決し、株主の生活が潤滑に廻るよう、株主が共通して守るべき最低限のルールを決めたりもします。
世の中のルール全般を決めたり、変えたりするのも仕事だって思ってください。
まあ、ほとんどの場合現場の方からルールの素案が提案されてくるので、それをコチョコチョやって決めた体でやっています。
代表者は現場リーダーの管理者であると共に、現場のルールメーカーです。
取締役達としては、代表者にはある程度現場に精通していることを期待したいところです。
一方、代表者としても一生懸命勉強してはいるようです。
それなりに現場のことを理解しているようですが、所詮素人です。
現場が全部わかるわけじゃないんで、現実的に仕方ないっちゃ仕方ないって感じです。
取締役たちの中から立候補を募り、選挙で決まります。
取締役
最後に我々、取締役です。
全株主のうち18歳以上になると自動的に就任します。
積極的に行う仕事はたった一つです。
取締役会において代表者を選ぶことです。
ただ、そのたった一つの仕事を遂行するために日常的に2つの役割を担っています。
一つ目は人柱です。
日本国政府株式会社の提供するサービスの品質向上のため、日本国政府株式会社が提供するサービスの恩恵と迷惑を身をもって被ります。
積極的に仕事しようとしたり、業務について勉強しようとしたりしなくても大丈夫!
初心者でも安心!誰でもできる簡単な業務です!
恩恵・迷惑ともに、ただ生きているだけでガンガン被りますので、ガンガン業務が捗ります。
ご安心ください。
二つ目はフィードバックです。
人柱となって受けた恩恵と迷惑のうち、恩恵は忘れてOKです。
というより、恩恵はあまり意識することはありません。
享受して当然と思うのが恩恵です。
恩恵は、日本国政府株式会社の手柄ですが、経費もそれなりですし、ましてや年々値上がりしてますからサービスがある程度高品質なのは当然です。
問題なのは迷惑です。
日本国政府株式会社の現場は、超優秀ですが、所詮は人間のやることです。
必ず不備やミスがあるものです。
また、彼ら現場が従うべきルールも人間が作ったものです。
提供するサービスに不公平や漏れや不測のケースが発生します。
また、案外忘れがちですが、新たなサービスの提供によって、従来のサービスによって受けていた恩恵の劣化や消失も発生します。
これも一種の迷惑と言っていいでしょう。
それら、株主が日本国政府株式会社のサービスから受ける迷惑を取締役会を通じて代表者会議にフィードバックするため、株主を兼ねている取締役は会社の提供するサービスを厳しい目で監視します。
身をもって被った迷惑はもちろんですが、特に気をつけなくてはならないのが、まだ取締役に就任していない18歳未満の株主が被っている迷惑です。
彼らは取締役ではありません。
自分たちが被っている迷惑を直接フィードバックする手段がありません。
お仕事に慣れたら、出来る限り気を配るようにしましょう。
フィードバックの経路
取締役は、サービスから被った迷惑・被っているらしい迷惑を改善すべく、取締役会で代表者を選びます。
代表者はそれぞれがフィードバックを現場に還元します。
その際、代表者は全株主を代表して代表者会議に臨むことを課されています。
もちろん社則によってです。
本来であれば、会社は株主の物ですから、株主総会で全ての意思決定をすればいいのですが、いかんせん株主は数が多く、全員参加の議論は現実的に不可能です。
そこで、意思表示としては株主の成年者で構成される取締役会で代表者を選ぶに留め、具体的な意思表示は全株主を代表する者で構成される代表者会議が全株主の意思を汲み取って議論することで、擬似的に株主の合意を具現化します。
理念的な株主の総意は、現実的には代表者会議での合意で代用されます。
世に言う『間接民主主義』です。
代表制による間接民主主義における株主の総意とは、実務上は代表者会議での決定と言っていいと思います。
カレー味のジレンマの続き
『カレー味のう○こ』か『う○こ味のカレー』か。
その選択肢に何の必然性があるのか、選択の結果で、株主の誰にどんな変化が起こるのか、全然見えません。
とは言え、現場リーダー含む代表者達やその周辺の取締役達は何やら難しい顔をして、やれ「最悪でもカレー味が最終ラインだ…」だの、やれ「人としての尊厳が…」だの、話し合っています。
意味こそ全く分からないものの、なんだか重大な決定のようであることだけは確かです。
取締役は必ずしも現場の事情に明るくはありません。
不勉強を責められたら言い訳はありませんが、それにしたって「『カレー味のう○こ』か『う○こ味のカレー』か」です。
どこから勉強したらいいのかすら見当もつきません。
取締役達の多くは、『日本国政府株式会社』以外に自分の本業を持っています。
また、家庭を持ち、子育て中の取締役達も決して少なくありません。
そもそも基本的に忙しいんです。
取締役全員が現場にそれほど明るくなくても、どうにか現場を管理するための『間接民主主義』であり『代表制』であったはずなのですが…。
周りを見回すと、ほとんどの取締役達は私同様、途方に暮れた顔をしています。
とうとう、私の頭の中で『投票棄権』の文字が徐々に、しかし確実に輪郭を現してきました。
もう一度投票率低下を考える
長々とモデルを設定しました。
お付き合いいただきありがとうございます。
続編ではこのモデルをベースにもう一度『なぜ投票率低下が問題なのか?』を考えるべく、さらに妄想を加速させます。
後編に続く